死ぬまでに飲みたい!おすすめオールドヴィンテージワイン

【 時代を越えて受け継がれるオールドヴィンテージワインを飲んだ方々の体験談をご紹介しています 】

【私の人生を変えた一本のワインNo.43】シャトー・ラトゥール1961

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シャトー・ラトゥール1961】

私の人生を変えた一本のオールドヴィンテージワイン

 この『死ぬまでに飲みたい!おすすめオールドヴィンテージワイン』ブログにお越しいただき、ありがとうございます。 

  突然ですが、あなたには「人生を変えた一本のワイン」がありますか?大切な人と一緒に記念日に飲むワイン、尊敬する人に薦められたワインなど、あなたにとって特別なワインは何か?

 ではなく、、、

 本当にそのワインがきっかけで人生を変えたワインをインタビューしてご紹介するシリーズです。それぞれの「人生を変えた一本のワイン」をご紹介しています。

 本日インタビューしたのは、この方

大淵 智徳さん(会社経営)

TY Investment & Consultancy HK LLC. CEO

EXPRORLERS CLUB 埼玉地区代表。TV・舞台の制作会社、リゾート開発会社を経てコンセプトメイクに特化したビジネスを起業。香港を中心に系列6社(建築設計、照明デザイン、映像制作、広告レップなど)で日本をはじめ世界各国で独自にマーケティング展開。

 

①人生を変えた一本のオールドヴィンテージワインは、何ですか?

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シャトー・ラトゥール

シャトー・ラトゥール(Château Latour)1961』です。

シャトー・ラトゥール(Château Latour)とは?

フランスワインのボルドー五大シャトーのなかで、最も男性的なワインとされ、完璧なまでの品質主義から生み出す、世界最高峰に君臨する偉大なワイン。エチケットは「象徴的な塔の上にライオン」という力強くタニックで荘厳なスタイル。

フランス語で、塔を「La tour(ラ・トゥール)」といい、13世紀にこの地にあった塔からとった名と言われている。シャトー・ラトゥールの哲学「今日の伝統は昨日の前進、今日の前進は明日の伝統」を掲げ、畑・醸造所の改良を行い続け、ワインに磨きをかけている。

ラトゥールでは、ランクロと呼ばれる特別な土地で育ち、長期的な品質管理のため常にブドウの樹の入れ替えを行い、十分な樹齢を重ねていない若樹にブルーのテープを貼り、それを目印に樹齢によって別々に収穫する。樹一本一本ごとに綿密な管理のもと栽培醸造される。 

※1961年(昭和36年)の出来事

第59代内閣総理大臣は、自由民主党池田勇人氏。

 

②なぜ、「シャトー・ラトゥール1961」を選んだのでしょうか?

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シャトー・ラトゥール1975

 ラトゥールとの付き合いは長いので、その馴れ初めからお話しさせてください。ラトゥールとの出会いは1986年。今から34年前です。当時、私はリゾート開発会社でホテルやレストラン、ヨットハーバー、映画館の企画担当として勤務していました。

 ちょうどその時期、「バベットの晩餐会(1987年度アカデミー賞最優秀外国語映画賞)」という素晴らしい映画に触れる機会があったんです。内容は、19世紀デンマークの小さな村を舞台に、ある初老の姉妹と二人に仕えるメイドが育む絆を、元シェフであったメイドが腕を振るう食事会を絡めて映し出すという映画でした。物質ではない精神的な充実感。本当の豊かさとは何か?ということに気がつかされました。

そして、素敵なワインや豪華な食事の数々に目を奪われました。そのバベットの晩餐会で出されたシャンパーニュは、ラ・グランダム (偉大な女性)と呼ばれるマダム・クリコの「品質はただひとつ、最高級だけ」という信念に導かれる「ヴーヴ・クリコ(Veuve Clicquot)」。そしてワインは、ブルゴーニュのクロ(石垣)に囲まれている特級畑から生まれる「クロ・ド・ヴージョ(Clos de Vougeot)」。

 当時の私はビール派で、シャンパーニュやワインに興味はなかったのですが、この映画の影響で興味を持ち始めたんです。とにかく美味しかった。その影響を受け「バベットの晩餐会」を系列上映館で配給し系列レストランで、映画と同じワインと食事をお客さまにも愉しんで頂くという企画を作ったんです。

 

シャトー・ラトゥールとの出会いは?

 その時に相談に乗って頂いたホテルのソムリエから、このブルゴーニュの「デュージェニー クロ・ド・ヴージョ」を手掛けているのが、ボルドー五大シャトーシャトー・ラトゥールだということを聞いて「とにかくシャトー・ラトゥールを飲ませて欲しい!」と懇願して飲ませてもらいました。これが初めての出会いです。

 正確なヴィンテージは覚えてないのですが、ソムリエに「まだ若いけどもね」と言われましたので、たぶん1978年頃のヴィンテージだと思います。完璧なまでの品質主義で男性的と言われるシャトー・ラトゥール。こんなに重たいワイン初めて飲んだ!という感覚で、衝撃的でした。その時に、私の中で初めてクロ・ド・ヴージョとシャトー・ラトゥールが繋がりました。知的好奇心を猛烈に刺激されましたね。これをきっかけにワインを趣味にしたんです。25歳の時ですね。

 その当時は、まだ日本にワインブームが来てない時期で、ボジョレー・ヌーヴォーが日本でブームになり始めた頃。ソムリエから言わせると、今からどんどん値段が上がるので、先に買っといた方がいいと背中を押されて。自分の誕生年「シャトー・ラトゥール1961」を80歳になったら飲もうと考えて購入しました。サラリーマンとして1か月分の給料よりも少し高い30万円ぐらいでした。

 

④人生を変えたシャトー・ラトゥール1961

 時は過ぎ、仕事の関係で兵庫県の西宮に住んでいました。あれは1995年1月17日の早朝。兵庫県は震度6を観測した阪神淡路大震災に見舞われ、その時住んでいた家は全壊。倒れた建物のほこりで辺り一面真っ白。そんな壮絶な状況の中、下敷きになった家の下からすごく豊潤な香りがするんです。ビックリするほど素敵な香りでした。

 というのも、家の一階のワインセラーで、私の生まれ年のワインだけではなく、妻や子ども達の生まれ年のシャトー・ラトゥールも大切に保存してましたので、それら全部のボトルが割れてしまったんです。ラトゥールのミネラルを含んだ甘い香気が辺り一体を包み込んでいました。実はこれ、家が壊れた事よりもショックでした。

 そして兵庫県も震災から復興してきた時に、妻と別れることになりまして。その最後の晩餐となったレストランに、彼女がシャトー・ラトゥール1961を購入して持ち込んできてくれたのです。結局最後まで、彼女が所懐することは推し量ることはできなかったのですが、、、。でも素直に嬉しかったです。僕は本当に、震災でラトゥールのボトルが割れて、妻や子ども達と一緒に飲めなくなってショック受けてましたので。

 

シャトー・ラトゥール1961の印象は?

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パーカーポイント100点と評されるラトゥール

 シャトー・ラトゥールといえば、頑固なまでに時間のかかる熟成でも有名です。20〜25年ボトルの中で熟成し、かなりのタンニンを流し、その素晴らしい力強さと深み、豊かさを示すようになります。故に「男性的」や「頑強」などと言われるワインでもあります。

 ワイン評論家のロバート・パーカーは、私の生まれ年である、この「シャトー・ラトゥール1961」を100点満点と評価しています。

1961年のラトゥールはいまだにゴージャスに甘く豊かで、エッジの琥珀色は全く生じないし、古びた兆候も見せない。堂々たる桁外れなボルドーで、私が試した最上のワインの一つであることは確かだ。

ロバート・パーカーボルドー」より引用。

 この時、抜栓はレストランのソムリエがしてくれたのですが、抜栓した瞬間すごい甘い香りがしました。阪神淡路大震災の時の、全壊した家の下から放たれたミネラルを含んだ甘い香気が辺り一体を包み込んでいた、あの時の香りでした。グラスに注がれたワインは「濃い血」のよう。ねっとり感というか密度が濃い感じ。少し口に含んでみると、土の匂いというのか生命力のようなラトゥールの力強さを感じました。

 

シャトー・ラトゥール1961は、どんなイメージ?

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グスタフ・クリムト「ダナエ」

 甘い香りのイメージで、味も甘いのかな?と思っていましたが、口に含んでみると甘さなんか当然無いわけです。香りの甘さとは裏腹に強い攻撃的な感じをすごく受けました。攻撃的というのは責められてるっていう感じではなく主張してるっていう感じです。官能的といえばいいのか。

 絵画で例えるなら、、、帝政オーストリアの画家グスタフ・クリムトが描いた、ギリシア神話に登場するアルゴスの美貌の王女ダナエ(Danae)の絵のような、エロスを感じました。この絵は、ダナエが父から幽閉された塔に、ゼウスが黄金の雨となって塔の窓から侵入し、裸のダナエに降り注ぐシーン。紅潮したダナエの表情から性的恍惚(エクスタシー)を感じさせるように、ラトゥールからもエロスを感じました。

 クラッシック音楽で例えるなら、、、ロシアの作曲家セルゲイ・ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番がしっくりくると思います。ロシア革命前夜の閉塞的な時代の空気。そして大地の力強さ。陰鬱で侘しい人間ひたむきな甘く切ない愛らしさを感じます。この「ピアノ協奏曲第2番」は、ラフマニノフが「交響曲第1番」の初演の失敗から精神的に参っている状態を解放してくれた曲でもあります。

 「楽壇の帝王」と称されるヘルベルト・フォン・カラヤン指揮。ベルリンフィルハーモニー管弦楽団の演奏をご覧ください。

 

⑦ラトゥールを飲んで人生がどのように変わりましたか?

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新しい価値観での新たな人生がまた始まる

 大袈裟な言い方すると「一度死んだ」です。新しい価値観で、新しい人生をこれから走っていかなきゃ行けない!という感じです。それまで私は、仕事をすごい忙しく生きた人生だったと思います。バブルの時代というのもありますが、とにかく常に突っ走っている感じでした。

 それである意味、妻と別れるというのは自分の中で挫折感がありました。その時は。表現が良いか分かりませんが、ある意味「一区切りついた、、、」という自分の中で焦燥感と同時に開放感がありました。そして、次のステージへの《希望》というアドレナリンが沸々と湧いてきました。私がオールドヴィンテージワインを飲む時は、やっぱり何か区切りの時です。過去を振り返るのはこれで終わりにしようと、今までの人生は死んだ。そして次の人生へという感じです。

 

⑧今の大淵さんにとってシャトー・ラトゥールとは?

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映画「バベットの晩餐会」のワンシーン

 僕がワインと出会うきっかけとなった映画「バベットの晩餐会」で学んだのは、ワインや食事というのは人生を豊かにするためのコミュニケーションツールなんですよね。北欧に住む人たちが暗い感じを受けたのが、食事やワインを人々と愉しむことによって、どんどん明るくなっていく映画なんです。

 僕にとってワインは、一つのコミュニケーションツールです。ワインを傾けていくと相手と深い話ができます。深いコミュニケーションを取りたい時はビールじゃないんです。ビールはビールで良いとこはあるんですけども深い話はできないですね。誰かと会って食事をするなら心と心が深く触れ合うような話をしないと意味が無いと思っていますので。相手の心と深いところでコミュニケーションとるためには、ワインが必要なんです。

 特にオールドヴィンテージワインは、その歴史を感じながら一本一本大切に飲みたいです。自分の中で、何かを決断して次のステージに行く時とか、そういう区切りの時はやっぱりオールドヴィンテージワインを誰かと開けたいですね。

 

⑨これからオールドヴィンテージワインを愉しむ人に向けて

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いろいろな人生経験がワインを愉しくする

 ワインは色や、香り、味覚だとか人間の五感をフルに使って愉しみ尽くすものです。感覚を手がかりに、頭の中に映像が浮かぶくらい想像力を働かせイマジネーションをすると面白いですよ。絵が浮かんでたり、映像や音楽など、イマジネーションが浮かび上がると、より一層ワインが深く愉しめます。頭にあるイメージを言語化できると尚更良いですね。言語化するとなると、言葉のボキャブラリーが豊富でありたいですし。

 例えば、音楽やってる人だと「シャトー・ラトゥール1961なんてハ短調だな〜」という捉え方もできると思うんです。絵描くのが好きだったら絵を思い浮かべてもいいですし。自分の好きな分野とかのイメージができるような飲み方をしてほしいです。

 そうする事で、もっとワインに深みが増してくるんだと思います。美味しいとか美味しくないとか、ワインを評価するような話ではなくて。「そんな面白い感想初めて聞いた!?」という話が出てくるかもしれませんが、分かる人には分かるし、分からない人には知的好奇心が湧いてきます。驚くべきことに驚ける。これが教養を深める第一歩です。

 簡単に言うとタイムマシンに一緒に乗ってるような感覚です。一時代を一緒に生きたみたいな感じですね。同じ釜の飯を喰った仲というか、一週間旅を共にした方が一年間付き合っている人よりも分かり合えるとか言ったりするじゃないですか。「俺もお前も無い」そんな感覚をオールドヴィンテージワインは味わうことができますね。

「インタビュアー 山下裕司:WRITING 落合予示亜」

 

●【最後に 】

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 インタビュー記事中に出てくるエクスプローラーズクラブが主催するワイン会は、一本のオールドヴィンテージワインだけを10名ほどのメンバーでじっくり愉しみ、知識や感想を共有し、お互い学びを得ながら上質で美しい時間を形成する会です。福岡地区のワイン会はインタビュアーでもある山下が開催しています。

 EXPLORERS CLUBでは、全国に地区(支部)があり、地区でのワイン会を開催しています。

 メンバーになると全国で開催されるワイン会にもご参加いただくことが可能です。EXPLORERS CLUB 福岡では不定期ですがクラブメンバー以外の方にもご参加いただけるオールドヴィンテージワイン会を開催しています。

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