死ぬまでに飲みたい!おすすめオールドヴィンテージワイン

【 時代を越えて受け継がれるオールドヴィンテージワインを飲んだ方々の体験談をご紹介しています 】

【私の人生を変えた一本のワインNo.46】シャトー・ムートン・ロートシルト1989

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【シャトー・ムートン・ロートシルト1989】

私の人生を変えた一本のオールドヴィンテージワイン

 この『死ぬまでに飲みたい!おすすめオールドヴィンテージワイン』ブログにお越しいただき、ありがとうございます。 

  突然ですが、あなたには「人生を変えた一本のワイン」がありますか?大切な人と一緒に記念日に飲むワイン、尊敬する人に薦められたワインなど、あなたにとって特別なワインは何か?

 ではなく、、、

 本当にそのワインがきっかけで人生を変えたワインをインタビューしてご紹介するシリーズです。それぞれの「人生を変えた一本のワイン」をご紹介しています。

本日インタビューしたのは、この方

長野 修平さん(会社員)

EXPRORLERS CLUB ヨット部 副部長。世界最難関7大海峡をディンギーで渡るヨット部『Oceans7』プロジェクト第5弾にて、2018年4月にニュージーランドのクック海峡を制覇。ギタリスト。

 

①人生を変えた一本のオールドヴィンテージワインは、何ですか?

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シャトー・ムートン・ロートシルト1989

 シャトー・ムートン・ロートシルト(Château mouton rothschild)1989です。

※シャトー・ムートン・ロートシルト(Château mouton rothschild)とは?

 シャトー・ムートン・ロートシルト(Château mouton rothschild)は、1973年メドック第2級から第1級に格上げされた驚異のシャトー。1853年から世界屈指の大財閥ロスチャイルド家の一つが経営し、絶大なブランド力を誇る。

 1924年、他のグラン・クリュのシャトーに呼びかけ、それまで業者に行わせていたワインの瓶詰めを「シャトー元詰め」で行い始めたシャトーである。

 ムートン・ロスチャイルドのワインラベルは、毎年、時代を象徴するアーティストの作品を鑑賞でき世界中のワインラヴァーを愉しませている。

 ジョアン・ミロ(Joan Miró)、マルク・シャガール(Marc Chagall)、ジョージ・ブラック(Georges Braque)、パブロ・ピカソ(Pablo Picasso)、アントニ・タピエス(Antoni Tàpies)、フランシス・ベーコン(Francis Bacon)、サルバドール・ダリ(Salvador Dalí)、ジェフ・クーンズ(Jeff Koons)、そしてイギリス・チャールズ皇太子殿下(Charles, Prince of Wales)。

※1989年(平成元年)の出来事

日本の内閣総理大臣は、自由民主党竹下登氏 → 宇野宗佑氏 → 海部俊樹氏で、1年に3内閣が変わる『平成』波乱の幕開け。

昭和天皇崩御、昭和から平成に。東西冷戦の象徴「ベルリンの壁」が崩壊し、28年間にわたる東西分断の歴史が終結任天堂が「ゲームボーイ」発売し、世界中でテトリスが大ヒット。ソウル・オリンピック開催。

 

②なぜ、シャトー・ムートン・ロートシルト1989なのですか?

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「シャトー・ムートン・ロートシルト1989」のエチケット

 私の属する『 EXPLORERS CLUB 』のワイン会で出会いました。EXPLORERS CLUB が主催するワイン会は、一本のワインを10余名で愉しみ、知識や感想を共有し学びを得ながら上質で美しい時間を形成する会です。

 特別ワインに詳しい訳ではありませんが「シャトー・ムートン・ロートシルト(Château mouton rothschild)」は、ボルドー5大シャトーの一つですし、ロスチャイルド家が経営するシャトーでもありますので、いつか飲んでみたいと思っていたワインでした。

 

 シャトー・ムートン・ロートシルトのエチケットは、毎年、稀代の著名なアーティストが描くアートラベルで、世界中のワインラヴァーを愉しませています。1989年のエチケットは、旧東ドイツ生まれの画家バゼリッツ氏(本名ハンス=ゲオルグ・ケルン)が描いたもの。

 逆さの牡羊が描かれており「ベルリンの壁崩壊」とムートン伝統のシンボルを結びつけている作品でした。バゼリッツ氏は『あべこべに描くことは、伝統的な主題が引き起こす様々な連想から、観る者を開放する手立てである』と、上下逆に描く“逆さま絵画”という異彩を放つ画家として知られています。

 ラベルに記したメッセージ「Drüben sein jetzt hier」は、「(壁の)向こうも今ではこちら」を意味します。もうこれを知るだけで飲みたくなるワインですよね。

 

③どんな抜栓だったんですか?

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コルクを感じながらじっくり対話する抜栓の時間

 今回のワイン会主催者が、参加者の中から抜栓者を指名。その方が抜栓しました。30年も前のオールドヴィンテージワインということもあり、時間をかけてゆっくり丁寧に抜栓を行いました。抜栓者でない私も手に汗握る緊迫した抜栓でした。

 

④どんな香りでしたか?

 コルクが6割くらい抜けたところから、微かに立ち昇る甘い香りが、徐々に空間を支配していく様子。グラスに注がれたワインの香りは、枯葉や土の香りを含んでおり、フルーティーな甘い香り。なんと表現すればいいのか。

 さすが、メドック格付け2級から1級に昇格させた唯一のとんでもないシャトーです。歴史を引っくり返し、エチケットも破壊的であり、1級に昇格した時に残した名句「われ1級になりぬ、かつて2級なりき、されどムートンは昔も今も変わらず」と、ムートンの文化というかレガシー(Legacy)を感じますね。

 

⑤一口目は、どんな印象でしたか?

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シャトー・ムートン・ロートシルト

 「シプナス」が活性化したといいますか、舌の「味蕾(みらい)」が一気に開花したと言えばいいでしょうか。とにかく深みがあり、渋み、酸味も僅かにあるのですが、それでいて優しさも兼ね備えている。そんな印象でした。女性でいうと成熟した大人の女性といったところでしょうか。

 参考までに、ワイン評論家のロバート・パーカー氏は、この「シャトー・ムートン・ロートシルト1989」を90点と評価しています。

1989年のムートン=ロートシルトは優れているが、1995年、1986年、1982年に生産されたムートンに比べてしまうと、抗しがたい魅力のあるワインとは到底言えない。

1989年はくらいルビー色で、早くもエッジに相当薄まった色合いを見せ始めている。ブーケは驚くほど発達して、西洋杉と甘い黒い果実、鉛筆、トーストしたような樽のにおいがする。

このエレガントでミディアムボディの、抑制されたワインはすばらしい出来で、スタイリッシュで、1985年に劣らない。秀逸さから傑出したムートン。

ロバート・パーカーボルドー第3版」より引用】

 

⑥ムートン・ロートシルトを飲んで、人生がどのように変わりましたか?

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「熟成」という言葉が自分の言葉になったクック海峡横断

 熟成ワインの奥深さという「熟成」という言葉の意味が、辞書で調べるとかではなく、自分の言葉として理解できるようになりました。冒険を通して自分の言葉を得て、その言葉を磨く(熟成)ことで、初めて人に伝えられる自分の言葉になるんだと思います。自分の言葉じゃないと言霊は宿りません。

 

 私は、2018年4月27日に、世界一過酷で危険といわれるニュージーランドのクック海峡をディンギーヨットで横断達成しました。(Mana Marina → Cape Koamaru。51.5km、5時間58分)ディンギーヨットというのは、風だけが動力になる二人乗りの小さなヨットのことです。実は、チームを組んで横断達成するまで、約一年という歳月がかかっています。

 ヨットの冒険は、海(波や潮流)・風(風向き・風力)など外部的な要因を考慮し、海図と睨めっこしながらパッセージプラン(航海計画)を立て、安全に制限時間内に横断できるようマネジメントします。

 世界一過酷で危険といわれるクック海峡にチャレンジする僕らは、全員がヨット素人でしたので知識だけでなく、技術練習、体力UPも必要です。まあ最初は、個人個人がバラバラで自分勝手で、とにかくチームにならない。お互いが主張し合い、何度となくぶつかりあいました。ヨットの練習の時は、風の煽りを受けてマストをへし折ってしまたり。

 

 そんな関係を深めながら、少しづつ理解が深まり、横断当日は話をしなくてもお互いが考えていることを分かり合えるようになりました。主従関係ではなく「俺もお前も無い」という仲間です。私は、仲間という言葉をこの冒険を通して理解することができました。仲間とは、ただ同じチームメイトというだけではなく、お互いが自分の限界を超える原動力となる相手のこと。それは「共に生きる!」ということを決めている相手だと思うんです。

 この「シャトー・ムートン・ロートシルト1989」も、ロスチャイルド家メドック格付け2級から1級に昇格させたワインです。それは「共に生きる!」という覚悟がないと昇格なんてあり得ません。「熟成」の前に「仲間」という言葉が来る。共に生きる仲間だから熟成できる。

 EXPLORERS CLUB ファウンダーであるKATO氏が言われていた、ワインを愉しむためには「ワインだけを学んでもしょうがない。もっと冒険しないとワインは愉しめない」という言葉の意味が理解でき始めた瞬間でした。

 

⑦そのワインに出会う前のあなたにとってワインとは?

 私は鹿児島出身ですので、お酒と言えば「芋焼酎かビール」でした。ワインもお酒の一種としか捉えておらず、ちょっとお金を持った人やお洒落な人だけが飲むイメージでした。

 

⑧今のあなたにとって、ワインとは?

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ワイン以外の様々な経験が、ワインをより愉しくさせる

 人生、日常を豊かにするものですし、私にとっては対話する相手でもあります。「シャトー・ムートン・ロートシルト」という極上の相手だったら対話したいと思いませんか?相手が極上であればあるほど、その対話の中で自分の言葉も磨かれてきます。恋愛と同じようなものかもしれませんね。

 私にとってワインを愉しむというのは、乗馬やヨットを愉しむのと似ています。パートナーと一緒に乗馬クラブにも通っているのですが、馬との共通言語を作っている段階です。「俺もお前もない」という仲間になろうと思って。熟成の段階に入るのは、もう少し時間がかかりますね。ワインも馬もヨットも分かち合えるようになるプロセスは同じですね。その時間を愉しんでいます。

 今の私では、全く歯が立たないようなオールドヴィンテージワインもあります。それらのワイン達と対話できるように、こういう贅沢な時間を積み重ねていく訳ですよね。オールドヴィンテージワインと過ごすための準備の時間も至福ですね。

 

⑨これからオールドヴィンテージワインを愉しむ人に向けて

 自宅で自分一人で飲むのも良いのですが、友人や仲間と一緒に愉しんで欲しいです。人生を愉しんでいる人、愉しもうとしている人と一緒に飲んでいただきたいです。

 そして、ワインのことを勉強するのももちろんですが、色々な遊びや愉しみを経験した上でワインを愉しんで欲しいです。そうするとワインを表現する遊びにも奥行きと幅が深まると思います。

「 インタビュアー:WRITING 山下裕司 」

 

●【最後に 】

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 インタビュー記事中に出てくるエクスプローラーズクラブが主催するワイン会は、一本のオールドヴィンテージワインだけを10名ほどのメンバーでじっくり愉しみ、知識や感想を共有し、お互い学びを得ながら上質で美しい時間を形成する会です。福岡地区のワイン会はインタビュアーでもある山下が開催しています。

 EXPLORERS CLUBでは、全国に地区(支部)があり、地区でのワイン会を開催しています。

 メンバーになると全国で開催されるワイン会にもご参加いただくことが可能です。EXPLORERS CLUB 福岡では不定期ですがクラブメンバー以外の方にもご参加いただけるオールドヴィンテージワイン会を開催しています。

 こちらの申し込みフォームにご登録いたただきますと『次回の開催案内』をメールにてご連絡させていただきます。

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